福留ハム株式会社 代表取締役社長 福原 治彦

ロングセラー人気商品「花ソーセージ」で知られる
福留ハム株式会社。先代の会長から現在の福原社長まで
勉強会などを通じて長い付き合いのある
小誌発行人・前田社長が
経営者としての理念などを語り合った。
広島の歴史と共に
歩んだ105年間
前田
福留ハムさんといえば、広島の人なら「花ソーセージ」のメーカーとして知らない人はいないと思いますが、 改めて創業からの流れを教えていただけますか。
福原
弊社の創業は大正8年(1919年)で今年で105年目になります。創業した曾祖父が福原留次という名前で、姓と名から1文字ずつ取って「福留」という社名になりました。最初は牛肉の卸問屋としてのスタートでした。肉の卸しと並行してハムの製造を始めたのが、昭和23年(1948年)ぐらいのことです。私の祖父が元々獣医で、獣医学校時代にハムソーセージ作りの知識を学んでいたのです。そこで、「これからは食文化もだんだん洋風化してくるだろうから、ハムソーセージ作りをやってみたらどうか」ということで製造を始めました。
前田
御社の看板商品である花ソーセージはその頃から作られていたのですか。
福原
ええ、まさにハムソーセージを手掛け始めた初期の頃に編み出した商品です。ソーセージをあの形にしたのは、かまぼこにヒントを得ました。飾りかまぼこのようなソーセージができないかといろいろ試行錯誤して、花の形になりました。それから70年以上、気が付くと今も本当に多くの方にご支持いただいております。
前田
花ソーセージといえば、お花見や運動会など、子どもの頃のお弁当に入っていたイメージがあります。
福原
ありがとうございます。花ソーセージにまつわるエピソードを募集したところ、代々子どものお弁当に入れていますというお声の他に、桜の形が縁起がいい、“サクラサク”ということで、受験会場でお弁当箱を開けたら花ソーセージが入っていて、それで勇気づけられたせいか、合格できました、というエピソードもありました。単に食べるというだけではなくて、いろいろな思い出と結びついていることが伝わります。我々としても非常にありがたいと思います。
普段の暮らしになじむ
新しいニーズを探る
前田
御社の製品に「ロマンティック街道」というシリーズがありますね。
福原
祖父が本場ドイツを視察した際、各地でハムソーセージの食文化に触れて発案しました。シリーズ名を「ロマンティック街道」と名付け、ドイツからマイスターを6人招いて技術を学び、作り上げました。今はギフト商品を中心に展開しております。
前田
ハムやソーセージは、少し高級なイメージがありますが、やはりギフト需要などが多いのでしょうね。
福原
お中元、お歳暮シーズンにはよく売れますね。ただ、ここ最近はそういう儀礼的なギフトというのは減少傾向にあります。これまでハムソーセージはギフトの象徴的な商品だったのですが、現代ではだいぶ生活に浸透していて、ある意味普段の食生活になじんできたのではないでしょうか。ただ、ギフト需要以外の需要をなかなか掘り起こせていないというのは、弊社だけでなく業界全体としてもあるかと思います。従来の「高級感=ギフト」とは違うマーケット開拓が目下の課題でもあります。
危機に瀕して痛感した
経営理念の重要性
前田
創業100年以上の歴史がありますが、創業者の思いといったものを受け継がれているのでしょうか。
福原
本日お越しの際にご覧になったかと思いますが、玄関に社是の「使命、感謝、創造」を彫り込んだ宮島彫りの一枚板を掲げております。
前田
玄関前で拝見しました。無垢の天然板に宮島彫りで文字が入っていて、手間のかかった貴重で立派なものですね。100周年を記念した宮島彫りも見ました。
福原
ありがとうございます。2019年に制作したものです。「志は品性立社 人は技能完成 道は安心創造」と刻みました。 2001年のことですが、日本でBSE問題が起こって牛肉が全く売れなくなり、弊社も含めて業界全体が経営危機に陥りました。補助金の不正受給で摘発された会社もありました。でも人としてやってはいけないことは、やらない。そういう本当にベーシックなところが経営理念に盛り込まれているんです。私もそれまでは、理念は理念、実際の仕事は仕事と分けて考えていました。しかし、根本となる考え方が間違っていたら、いくらいい会社でも倒れてしまう。理念と実際の活動はきちんとリンクしていないと大変なことになります。やはり“ここを目指していこう”という方向性を、リーダーとして常に指し示していくことが非常に大事ですね。
前田
私も起業して31年になるのですが、経営理念の浸透にずっと悩んできましたし、振り返れば力を入れてきました。形を変え、言葉を変えても、大体同じようなことをずっと言っているんですけど。会社が大切にする価値観を社員全員と共有して、会社が向かう方向性を示すために努力しているところです。
福原
この応接室に飾っているモニュメントは100周年のお祝いにいただいたものなんですが、孔子の教えを表しているんです。水を入れる「かめ」が3つ並んでいますが、欲を出して入れ過ぎるとひっくり返るし、傾いた状態だと中途半端にしか入らない、この中庸で正しい状態なら、ちょうどいい量で真っすぐな形に収まるという教えが示されています。だから何ごとも中庸と言いますか、ほどほどがいいのではないかと思うんです。
ハムソーセージに
新たな光を当てたい
前田
将来的に取り組んでいきたいビジョンはありますか。
福原
かつてのごちそうというハムソーセージのイメージにもう一度光を当てて、輝く存在にしていければと思って取り組んでいます。冒頭で花ソーセージの話をしましたが、同じようにこれからまた次の80年、90年、100年に向けて皆様に愛される商品を生み出せれば。狙っていくというよりは、お客様に毎日食べていただいて、育てていただけるような商品を1つでも2つでも開発したい。あるいは、今売っているものがそうなっていくためにはどうブラッシュアップしていけばいいのか。お客様に愛される商品が、これからさらにまた一品でも増えていけばいいというのが活動の原動力だと思っております
前田
広島のハムソーセージを全国に発信していきたいですね。今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
福留ハム株式会社
代表取締役社長
福原 治彦
1970年広島県生まれ。
1998年福留ハム株式会社入社、2020年代表取締役社長就任。
趣味は食べ歩きと飲み歩きで、座右の銘は思いやりを表す“仁恕”(じんじょ)。