株式会社あじかん 代表取締役 社長執行役員 足利 直純

株式会社あじかんは広島で卵焼きや
総菜類の製造販売として創業し、
現在はごぼう茶などのヘルスフード事業も展開する。

自身もごぼう茶を愛飲する前田社長が
広島との関わりについて足利社長と語り合った。
京都の老舗で修業を積み
のれん分けで広島へ
前田
あじかんのごぼう茶は私も飲んでいます。プロデュースなさった南雲先生のように若々しくなれていればいいのですが。
足利
ありがとうございます。ごぼう茶は2010年から販売しています。元々の事業はスーパーやコンビニ向けの卵焼きや総菜類の製造販売です。
前田
一般の方にはあじかんの卵製品などについてご存じない方もいらっしゃると思うので、御社の事業内容や沿革などをご紹介頂けますでしょうか。
足利
創業者である私の父は若い頃、京都の卵焼き製造の老舗で修業していました。関西ではそうした卵焼き専門メーカーが、巻き寿司やにぎり寿司の具材として寿司店に卸していたのです。
いよいよのれん分けすることになり、本家の迷惑になってはいけないから京都以外で開業しようと、電車に乗っていい場所がないか探し歩きました。
広島に来てみると、西日本の中心だし、目の前には四国があります。 日本海側は山陰地方があり、九州にも近い。広島が一番商売を広げられるだろうと、1962年に広島に会社を起こしました。
前田
玄関に、銅製の大きな卵焼き器の相当使い込まれたものが飾ってありました。
足利
創業当時、父が実際に使っていたものです。
前田
そうでしたか。お父様は元々広島に縁があったというわけではないのですね。卵焼きを焼いて寿司店に売るというビジネスがあったとは知りませんでした。
足利
はい、関西は当時景気がよく、寿司店も忙しくて自分で焼ききれないため専門メーカーから買っていたんですね。
父は、いずれ広島でもそういう風になるだろうと、広島に拠点を定めたそうです。でも最初はなかなか売れずに苦労したと聞きました。卵焼きを朝焼いて持って行き、一生懸命売り込んで、でも売れなくて捨てて、という繰り返しの日々。
言葉が関西弁でしょう。当時の広島では、関西弁がうさんくさい印象だと思われたのかもと言っていました。
やっと1件のお寿司屋さんが買ってくれて、最初のお客さんができたときは本当に嬉しかったと言ってました。
前田
私は、広島の老舗料亭の方からその頃の話を聞いたことがあるんです。あじかんの先代、お父様が勝手口から「卵焼き要りませんか」とやって来て、要るわけないだろうと断った。でも何回も何回も、次の日もまたその次の日も来られて、「皿洗いでもお手伝いさせてもらえませんか」って。
じゃあ頼むと言うと、何回も何回も来て皿洗いを手伝ってくれた。その熱意に感心して、ようやく「じゃ、1本置いとけ」と言って付き合いが始まった、という話を聞いて驚きました。
足利
それはよく父から聞きます。商品自体じゃなくて、自分をまず買ってもらうことが肝心だと。 自分を買ってもらえるまで、皿洗いに毎日通い詰めたんだよって。
前田
すごいですね。そうやって卵焼きから広がって、色々な商品が増えていったんですね。
足利
卵焼きを買ってくださるお客さんから、味付けかんぴょうなど、他の具材も用意してくれないかと要望があり、それならうちで作れないかと考えて開発していきました。
カニカマなど当初は水産会社から仕入れていたんですけど、その会社はアメリカ向けの輸出が好調で、これ以上供給が増やせないと言われて、じゃあ自社で作ろうと。製造機械も一から自社で開発しました。なんでもとりあえずチャレンジしてやってみようという精神は昔から変わらないですね。
そのほか、お客さんに利便性を感じてもらうためには、食材以外にもお客さんがお使いのものをどんどん品揃えしていこうと、一時は割り箸や寿司を入れる折り箱まで自社で作ってましたね。現在はスーパーやコンビニ向けの総菜類を提供しており、全体の売上の7割くらいを占めています。
前田
会社が成長する中で、創業者の思いのようなことをお父様から聞かれたりしましたか。
足利
子どもの頃ですが、父から「なんで卵焼きって売れると思う?」と聞かれたことがあります。「おいしいからかな」と子どもなりに考えたんですが、父は「卵は黄色いから売れるんだ」と。
前田
えっ!黄色いから?
足利
和食の基本に、5色の彩りというのがあるんです。巻き寿司なら海苔が黒で、シャリが白、赤は人参、青はキュウリ、そして黄色は卵焼きという5色を必ず入れる。
黄色い食べ物って他にはなかなかないから、卵焼きは売れるんだよ。そういう基本を大切にしなさいと言われました。
ごぼう茶からスイーツまで
健康とおいしさを追求
前田
卵焼きやお総菜から、次はごぼう茶を作られて大人気ですね。ごぼう茶はどういった経緯で開発されたのでしょうか。
足利
ゴボウを食材として食べているのは世界中でも日本くらいなんですよ。海外では木の根っこみたいな感覚で捉えられています。
中国では漢方薬のような位置づけなんですが、日本への輸出用に栽培している中国の産地へ前の専務が行ったところ、現地ではゴボウをフライパンで煎ってお茶にして飲んでいたんです。それを勧められて飲んでみて、これは日本で売ったらいいんじゃないかと思い立ち、商品開発が始まりました。
最初の試作品は土臭くておいしくなく、焙煎方法など工夫を重ねて数年がかりで商品化しました。南雲先生にも風味についてアドバイスを頂くなど、ご協力頂きました。食品メーカーですから、おいしさについては譲れないです。
前田
南雲先生のご著作、拝読しましたよ。ごぼう茶を飲んでびっくりするくらい変わられたんですよね。
足利
南雲先生は当時ごぼう茶を自作されていて、先生の講演会に弊社の社員が参りましてご挨拶したところ、ご協力くださるようになりました。
その時はご著作にもあじかんのごぼう茶のことを書いてくださったのですが、なんと一切ギャラはいりませんと仰って、全部タダでやってくださったんですよ。
その後テレビ出演が増えて事務所に所属されてからはギャラが発生しましたが、当初は「僕はごぼう茶をこの世の中に広めたいので、お金は一切要りません」と仰ってくださったんですよ。
前田
それはすごいことですね!今は通販とかで販売されているのですか。
足利
弊社のごぼう茶は、通販とドラッグストアで販売しています。ドラッグストアは日本全国に1万6000店舗ぐらい、全国の約8割の店舗に置いてもらっています。
このほど新製品も出しました。「ごぼうのおかげW」という機能性表示食品で、お通じ改善やお腹周りの脂肪、ウエスト周りを減らす効果があります。
前田
ごぼう茶から展開したチョコレート風味のスイーツ「GOVOCE」(ゴボーチェ)も出ましたね。実は私も先日購入したんですよ。
てっきりチョコだと思って食べたら、カカオが入ってないと聞いてびっくりしました。ぜひ皆さん手に取ってもらいたいなって思いました。
足利
ありがとうございます。プラントベースドフードの研究中に、ごぼう茶と植物油脂を混ぜるとチョコレートみたいな香りがすることに気がついたんです。それなら、チョコレート風のお菓子にしてみようと開発を始めました。
ごぼう茶の粉末を油脂と混ぜてみたら舌触りが悪かった。そこで粒子を髪の毛の5分の1ぐらいのきめ細かさにすると、ざらつき感を感じなくなりました。
次は口どけ。33度で溶けるのが一番心地よいことがわかり、33度で溶けるようにしました。130回ぐらい試作をして、ようやくおいしい商品として発売できるものが完成しました。
今年クラウドファンディングで販売をしたところご好評を頂いたので、この秋口ぐらいから一般販売をする予定です。
前田
香りが良くておいしいです。ノンカフェインで食物繊維やポリフェノールが入っているのもいいですね。どこで買えますか?
足利
弊社の通販サイトと、スーパー、ドラッグストアなどで展開する予定です。
前田
楽しみですね。
日本の食文化を
次世代に伝えていく
前田
今後の計画やこれからのビジョンについてお聞かせ願えますか。
足利
卵焼きやカニカマなど、日本食の素材をアメリカやヨーロッパ、オーストラリアをはじめ、シンガポールや香港といったアジア圏にも輸出していますが、海外での販売をさらに増やしていきたいという狙いから、アメリカに販売会社を作りました。
前田
アメリカで販売を広げるのは業務用の食材ですか。
足利
はい、そうです。アメリカも外食店舗と、あと日系のスーパーが取引相手です。それからごぼう茶などのヘルスフード事業の売り上げが全体の10分の1弱ぐらいなので、もっと拡大させたい。
あとは一般消費者向けの市販品の開発です。 弊社の中心事業はほとんど業務用です。ごぼう茶以外にも、一般の方々に直接お届けできる商品を開発するプロジェクトに取り組んでいるところです。
方向性でいうと、食品メーカーですからおいしさ第一でやっているんですが、今の時代はおいしさプラス健康ですね。そして今からは地球にもいいということが大切だと思います。おいしくて健康にもいいというと、さらにおいしく感じる。そして地球にいいものを食べていると思うと、またいっそうおいしく感じる。それが今からの時代だと思います。
SDGsについても検討チームを作って、色々取り組んでいます。あじかんと聞いて、おいしい、健康にもいい、さらに地球にいいというイメージを持っていただけることを目指します。
そのため、食育活動として小学生向けの巻き寿司教室を、学校や子ども食堂などで開催しています。巻き方を教えたり具材について学んだりします。
前田
確かに、巻き寿司を巻いたことのある人って最近ではあまりいないかもしれません。私も子どもの頃、親の横で巻き寿司をを巻いた記憶がうっすらとありますよ。
足利
例えば、かんぴょうは何からできているかご存知ですか?
前田
えっ、かんぴょう?うーん、わからないです。
足利
かんぴょうってユウガオの実からできているんですよ。削って干したものを水戻しして味付けしています。そういうことを子どもたちに教えたりしています。
現代は和風の巻き寿司ってあまり売れなくなって、 売れるのはヒレカツ巻きとか海鮮巻ですね。昔ながらの巻き寿司は高齢の方々は食べますけど、若い人はあまり食べないんですね。
でも、やはり巻き寿司も日本食、先ほどお話しした和食の文化なので、未来の世代にも伝えていきたいという思いから、子どもたちに親しんでもらおうと取り組んでいます。
弊社ではそうした食育活動などを通じて、巻き寿司の普及活動を行う専門部署を今年度から立ち上げました。「巻き巻き課」です。
前田
それはおもしろいですね!
足利
一つのブランディングですね。あじかんってこういう会社です、ということを、巻き寿司を通して知って頂けたらと思います。
食を通じて
広島の魅力を発信
前田
弊社は「広島をいい笑顔に」を掲げて活動しています。足利社長の広島に対する思いをお聞かせ願えますか。
足利
私の父は京都から誰も知り合いのいない広島に来て、広島の皆さんに助けられて、今では広島を大好きになりました。私は広島で生まれ育っていますので、全国の人に広島をもっと好きになってもらいたい。今は転出超過といわれているでしょう。やはり、入ってくる人より出ていく人の方が多いと聞くと、残念だなと思うんですよね。
広島をもっと好きになっていただきたいという思いのもと、食品メーカーとしての我々は、広島には弊社の他にもすばらしい食品メーカーさんがたくさんあることを知ってほしい。他のメーカーさんたちとコラボして、広島の食のすばらしさを発信していきたいと思っています。
前田
オタフクソースさんとも色々取り組まれていますね。
足利
はい、巻き寿司教室もオタフクソースさんとのコラボで一緒にやっていますし、海苔は広島海苔さんのものを使わせてもらってます。
その他、モーツアルトさんとコラボして、からす麦のクッキーにごぼう茶の粉末を使ったものを販売したり。
あと、福山に豆徳さんという豆菓子の会社があるんですが、弊社と協力してゴボウの豆菓子を作っていただいたりしています。色々なメーカーと協業して、広島の食をもっと広げていきたいと思います。
前田
食は、笑顔になるし会話が増えるし、元気になります。一番大切なものですよね。最後に、弊社は住宅リフォーム業なので、社長の住まいへの思いをお聞かせいただきたいのですが。
足利
以前、自宅をリフォームするにあたり、何をどうしたらいいかさっぱりわからないのでマエダハウジングさんに相談させて頂いたんですが、担当の方々の対応がすばらしいです。やはり社長さんの教育というか、そういう社風を作っていらっしゃるのかなと思いますが、どなたとお話しても心地よい対応をしていただけます。
本当に誠実にご説明いただきました。この方が安くなりますよと教えてくださったり、ここまでやる必要はないかもしれないですねとか、とても正直にお話しくださった。そういう、自社の利益だけ優先させるのではなく、顧客のことを第一に考えた対応をしていただけるっていうのが、ほんとうにすばらしいなと思いますね。
前田
ありがとうございます。そう言って頂けると恐縮です。今日は貴重なお時間を頂き、本当にありがとうございました。
株式会社あじかん 代表取締役 社長執行役員
足利 直純
1968年広島県生まれ。1987年修道高等学校卒業、1992年成城大学卒業。1998年株式会社あじかん入社、2014年取締役、2021年4月代表取締役社長に就任。同年6月より現任。趣味はゴルフ。