株式会社サンフレッチェ広島 クラブ・リレーションズ・マネージャー 森﨑 和幸

「サンフレッチェ広島」の中心選手としてファンに愛され、
現役引退後はクラブと地域の橋渡し役を担う森﨑和幸氏。
現役時代の苦悩を乗り越え、引退後の新たな役割に燃える森﨑氏が
前田社長と熱い思いを交わす。
自分を支え続けてくれた
広島の人と街に恩返し
前田
実は私どもの社員が「サンフレッチェの森﨑さんにお好み焼きをいただいた」と興奮していたんです。何かと思ったら人気のお好み焼き店で千枚を無料プレゼントされたと聞いて感激し、すぐ森﨑さんへメールさせていただきました(笑)。
森﨑
お世話になった地元広島に、弟と出版した本の印税を寄付したいと考えていましたが、広島のソウルフード・お好み焼きで皆さんを元気にする活動を選択。手渡す人の笑顔に私が元気をもらえ、やって良かったと実感しました。
前田
サンフレッチェでチーム初の高校生デビューを飾り、新人王も獲得。弟の浩司さんもサンフレッチェで活躍され、双子のJリーガーとして全国から注目されました。入団までの経緯を聞かせてください。
森﨑
小学生のときから弟とサッカーを始め、指導者や仲間に恵まれた環境で全国大会にも出場しました。早くからプロになりたいと思い、それならサンフレッチェのユースが近道と聞いて弟と入団。高校生でプロデビューしたことは、「結果を出すのが当たり前、常に試合で活躍する」という高い意識につながりました。それから広島のファンやサポーターに支えられ、20年間の現役生活をサンフレッチェ一筋で送ることができ、広島の人と街には感謝しています。これからも恩返しを続けていきたいですね。
3回の優勝と2回の降格
両方を経験した現役時代
前田
当社も広島をスポーツで元気にしたいと願い、呉地区で少年サッカー大会を定期的に開催しています。2年前の豪雨災害では被害の大きい地区もあり、再開したときの選手宣誓では「サッカーができる毎日に感謝したい」との声に感動しました。子どもたちにとってプロ選手は憧れの存在。現役時代の思い出はやっぱり3回のリーグ制覇ですか。
森﨑
もちろん優勝はうれしいです。私はそれまで日本一になった経験がなく、優勝したときはどのような風景が目の前に広がるのか想像していました。実際に初めて優勝したきは、喜びよりも先に苦しかったことが思い出されるんです。調子が出ずチームに貢献できなかったこと、弟の浩司と比べられたことなど、苦労したときの思いがあふれ、それから喜びが爆発したような感覚でした。
前田
J2への降格もありました。
森﨑
やはりチームへ申し訳ない、ファンやサポーターを裏切ってしまったという無念の気持ちです。翌年は何としても復帰する、という思いで大きなプレッシャーの中、チームが一丸となれたのが、復帰の原動力でしたね。
前田
黄金時代を一緒に経験された森保監督はいかがでしたか。
森﨑
森保さんは選手のマネジメントが上手で、選手目線で一人一人とコミュニケーションを取り、心理学者のようでしたね(笑)。悩んでいる選手を察知したら、すぐそばに来てくれる。それは試合に出る選手だけでなく、出られない選手に対しても同じです。
前田
森保監督が一緒に走ってくれたそうですね。
森﨑
不調やメンタルの悩みを抱えていたとき、他の選手に迷惑をかけないよう、時間外の早朝に私と弟、森保さんの3人でランニングをしました。森保さんの言葉や行動は、監督と選手の関係を越えたものでした。見習うことばかりです。
うつ病を経験して気づいた
帰る「場所」の大切さ
前田
先ほど話に出た、うつ病の経験を告白された本「うつ白」は衝撃でした。弟の浩司さんも同じ悩みを持ち、関わる人は実名で書かれていますね。
森﨑
私自身も悩みました。自分の弱みを見せていいのか、疑問に思ったときもあります。それでも事実を伝えたかったので、家族や協力いただいた方に了解を取り、書きました。私と弟を支えてくれた方たちへの感謝、恩返しをしたい気持ちが後押しになりましたね。うつ病は誰にでも起こり得ます。同じ病気の方はもちろん、病気ではない方、家族や医療スタッフの方、多くの方々のお役に立てればと思っています。
前田 
私がこれから取り組みたい活動に、心の悩みや障がいを持つ方の社会復帰を支える事業があります。多くのご縁が重なり、横川に自立訓練事業所「ミライワーク」を開設しました。ビジネススキルの習得やコミュニケーション訓練などの場を提供していますが、利用者の話を聞くと苦労されているケースも多く、いつも考えさせられます。
森﨑
それはすばらしい取り組みですね。私も病気を経験して、誰かに今の気持ちを聞いてもらえることが大切と気付きました。うつのときは試合に負けたら自分のせい、全てが自己否定です。それを支えてくれたのは家族。妻と子どもたちが自分を受け止めてくれ、言葉にできない感謝を感じています。「ミライワーク」は、心に悩みを抱える人たちがそこへ行けば話を聞いてもらえる、安心できる場所という印象です。
前田
今はコロナの影響で住まいの役割も見直されています。在宅ワークや自粛で家に居る時間が増えたことで、生活動線や収納、書斎などを確保する家づくりが求められています。森﨑さんは家にどんな思いがありますか。
森﨑
病気から復帰したとき、サポーターの皆さんが「おかえり」という横断幕で迎えてくれました。自分にはチームという帰る場所があったと感動しました。家も同じです。心からリラックスし、安心できる場所。そこに暮らしやすさや好きなデザイン、夢がカタチになればいいですね。
前田
これからは新しいサッカースタジアムという夢がありますね。
森﨑
サッカーはもちろん、多目的に楽しめ、平和を発信するスタジアムとして、広島が世界へ誇れる場所となるよう願っています。
前田
これからは企業人としてのご活躍にも期待しています。今日はどうもありがとうございました。
株式会社サンフレッチェ広島
クラブ・リレーションズ・マネージャー
森﨑 和幸
1981年広島市生まれ。サンフレッチェ広島ユースを経てサンフレッチェ広島へ入団。J1リーグ通算430試合に出場、19得点を上げ、3回のリーグ優勝に貢献。現在はクラブ・リレーションズ・マネージャーとして、クラブとさまざまな場をつなぐ活動を担う。